コッコウのヒーロー
2012.11.2ヒト
規則と規律は違う。過剰な規則は、人間としての規律を完膚無きまで蝕んでしまう。
自由な発想を養わなければならない大切な時期に、我々は考えるという行為を奪われてしまった。
無意味な過剰な規則の前に抜け殻と化してしまったのである。17歳。ある暑い夏の日だったと思う。ルーチンの頭髪検査や持ち物検査を経て、やっとのこと校内に入ることが許可された。
3階の教室に階段で急ぐ私の耳に、ざわついた声とともに女生徒の悲鳴が飛び込んできた。2階の部屋には女生徒が集められ、抜き打ちでさらなる検査が行われていた。窓ガラスから目に飛び込んできたのは、大柄の中年教師が公衆の面前で女生徒を殴りつけている場面だった。
A子が泣いていた。A子は、私が密かに思いを寄せていたクラスメートであった。若かった。私は怒りに震えた。ドアを開け、無意識のうちに、その教師に向かって叫んでいた。「おい、暴力教師、いや教師なんかじゃない。暴力野郎。女を殴るなんざ、家に帰って、テメーのガキにでもしてやがれ。おまえみたいな人間は教師の風上にもおけない。クビにしてやる」一瞬、ふいを付かれた暴力教師だったが、すぐさま気を取り直し、私をにらみつけ怒鳴り声をあげた。「なんだぁ。だれだおまえは。そんなヤツは退学だ。いますぐ退学だ。職員室へこい。ここは私学なんだよ。民間企業なんだよ。くびになんてできるわけねえだろ。あほか」女生徒全員の目が私にそそがれている。もうひっこみがつかない。私も言葉を続けた。「学校の教員は、自己の崇高な使命を自覚し、絶えず、研究と修養に励み、その職務の遂行に励まなければならない。お前さんは、この教育基本法の条文を知ってるのか」「助成を受ける学校法人はな、文部大臣や知事の監督に服さなければならないんだよ。オマエのクビなんて、価値はゼロなんだよ」彼の思考能力の限界を超えたのだろう。暴力教師は、野卑な笑いを浮かべながら、こぶしを振り上げてきた。ブルースリーに習ったマーシャルアーツで、オレは突然の教師の攻撃をかわした。教師は勢い余って床にひれふした。懲りずに教師は立ち上がり、態勢を整えて向かってきた。箒を上段に構え、オレに振り落とそうとした。オレは、チャックノリスに習った空手でさっと攻撃をかわした。教師は、机の上にころがった。ロッカーの上にあったバケツが、タイミング良く教師の頭に水をぶちまけた。教師は、恥ずかしさのあまり、戦闘意欲を失ってしまったようだ。教師は顔を床にうずめて、立ち上がろうとしなかった。オレはA子に声をかけた。「大丈夫か。けがはなかったか」A子はうなずき、小さな声でいった。「藤原君。ありがとう。まさか藤原君がきてくれるなんて。でも、きっと来てくれると思ってた。こわかった」A子はオレの胸に小さな顔をうずめて、イヤイヤをした。「もう大丈夫さ。こんなクズはほおっておきゃいい。こんな恥ずかしい思いをしちゃ、こいつも、誰にもきょうのことはいえないだろう。」「きょうのことは、おれたちだけの秘密だ」。周りの女生徒は一斉にうなずいた。「さ、授業だ。おれたちの本分は勉強だからな。こんなことに関わっていないで、自分たちの将来をしっかりと考えよう」女生徒達の尊敬のまなざしが痛い。でもオレが好きなのはA子だけさ。床にひれ伏した教師を教室に残し、俺たちは1時間目の授業へと歩いて行った。
・・・・・・・・と、日記には書いておこう。
寝れない夜はこんな妄想をしながら眠りについて30年。永遠に発展途上の50歳です。スミマセン。